はじめに
呆然とする妻
電話を切った妻が、茫然とつぶやいた。
「もうわけがわからない……」
ここ数日で、何度同じ話をしたかわからない。マンションを売却するのに、まずは大まかな査定額を知ろうと一括査定を申し込んだが、次々に営業電話が来るばかり。まだ、一通の査定書すら届いていなかった。一歩を踏み出すきっかけすらつかめない。何度も電話を受けるうち、売却自体を一旦休んだ方が良いかもと思い始めていた。
はじめてのマンション売却を考えた理由
家を売ろうと思ったきっかけはごく単純だ。もっと広い家に住みたいから。新型コロナウイルスの感染拡大で夫婦そろって在宅勤務になり、1SLDK・50平方メートルの我が家は一気に手狭になった。私は寝室の一角にデスクを置き、妻は扉1枚隔てたリビングで仕事をしている。妻は声がでかい。ミーティング時間が重なるとついこちらも声を張り上げてしまうし、原稿を書いていても集中できない。当然、妻も同じような不満を持っている。だましだまし1年半やってきたが、もう限界だ。
住み替えのため、何社か不動産会社に問い合わせてみた
こうして私たちは、引っ越し先探しと今住んでいる家の売却に同時に取り組むことにした。マンションを売るのは初めて。勝手がよくわからない。とりあえず、引っ越し先探しは不動産情報サイトから気になった物件を「一括資料請求」し、売却は検索で引っかかったサイトから「一括机上査定」を申し込んだ。そのサイトを選んだのは「60秒で一括査定!」の文言に惹かれたからだ。物件情報を入力するのに3分くらいかかった。ので「60秒はどこいった?」と思ったが、つづいてAIが示した候補のうちの4~5社にチェックを入れて、合計5分で査定依頼が終わった。なんだかんだ便利な世の中だ。さらに、妻はそれだけでは足りないと思ったのか、ほかにも数社、個別に査定をお願いしていた。
これで、売る方は机上査定が届くだろうし、買う方は資料請求した物件の詳しい情報がメールで送られてくるのだろう。机上査定を見比べてあたりを付け、そのうちの2~3社と直接会って売却仲介を依頼する先を決めればいい。そう思っていた。
不動産一括査定をやってみた結果…
■電話はくるが、査定は届かない
ところが、考えがとてつもなく甘かった。査定を申し込んで約1時間、見知らぬ番号から電話があった。一括査定を申し込んだ先の一社だった。そのときは「熱心だな」くらいに思っていたが、それ以降、次から次へと電話がかかってくる。売却の査定をお願いした会社だけでなく、引っ越し先探しで資料請求したところからもかかってきた。もはや何が何だかわからない。
そして、毎回同じことを聞かれる。物件の状態、売却の条件、引っ越しの理由。特に本気度を見定めたいのか、なぜ引っ越したいのかしつこく聞かれた。こっちはひとまず査定額を教えてほしいだけなのに。さらに、一通りの話が済むと営業の人はこう言った。
「それでは、査定のために実際にお伺いさせていただきたい」
ひとりだけではない。みな、同じようなことを言う。机上査定はどこ行った?
まずは机上査定の結果を送ってほしいとお願いしても、「実際の状態を見ないことには……」などとかわされた。結局、訪問前に机上査定を送ってくれたのは1社だけで、それ以外の会社は訪問時に査定を渡すという。「60秒で一括査定!」の闇を経験した。
■机上査定のはずが訪問に。不動産会社の選び方に混乱
もう仕方ないので、3社実際に来てもらうことにした。事前に机上査定を送ってくれた中堅の1社と、よく聞く大手、それから、通常「3%+6万円」で変動する仲介手数料が一定額だというところ。
会ってしまえばいろいろなことがクリアになったのではと思ったが、はっきり言ってますます混乱した。
まず、査定額が各社で全然違う。「売り出し提案価格」からして約500万円差。さらに、「仲介手数料半額キャンペーン中です!」とか、「ハウスクリーニングを入れるから売れやすいですよ」とか、「うちは掲載する情報サイトが多いんです!」など、いろいろな提案もされた。「検討しますね」と言って笑顔で担当者を送り出したが、どう検討すればいいかもわからない。
面倒になり、私は妻に「一番査定が高いところにお願いしよう」と提案した。
だが、こういうところで妥協しない妻は「もう1社、色が違いそうな所を予約してある」という。それが、妻が別途査定を依頼していたうちの1社、イエシルだった。運営会社が不動産企業ではないため「しつこい電話勧誘をしない」のがウリで、アドバイザーが不動産の基礎知識や業界の裏側もレクチャーしてくれるという。一度電話があり、メールもくれていたのだが、各社からの攻勢に圧倒されて忘れていた。まずはイエシルのレクチャーを受けてから、仲介依頼先を決めても遅くない。妻はそう言って、渋る私を説得した。「一括査定の価格で本当に売れるの?」といった疑問を解決!経験豊富な有資格者が営業要素ゼロの"成約妥当価格”を無料で算出します。